AM11:45
ピピピッピピピッ------------
少しの仮眠をとっていたハワードの耳に無情なアラーム音が響く。
「ダルい…」
そう発しながらも、高い音をたてる耳障りなアラームを
乱暴に消し朝日に渋い顔をしてみせた…
「あれから、もう一週間…か…」
どうやら彼、ゲイリーはあまり仕事熱心じゃないらしい。
前の担当なんかは用も無いってのに、そりゃ毎日毎日通って来てたってのに…
考えても仕方ないことを長々と考える癖は、どうも抜けないらしい…
それがオレだから、あきらめてはいるものの考えると頭痛が酷く
モチベーションは見る見るうちに下がっていく。
はず…なのだが…
首を傾げ「うーん」とうなる…
頭痛所かモチベーションも下がらないなんて事が
あるとは自分でも意外な様子のハワード。
うなり声を上げて首を傾げるハワードに忍び寄る
くるくるの茶髪…
「仕事、出来てます?」
続く。
ハワードの気持ちを知ってか知らずか…
ゲイリーは感情の入っていない瞳を涙で潤していた。
もちろん、涙の理由は『アクビ』…
つまらなさそうな表情をうかべ袖で涙を拭う…しかもダルそうに。
ハワードの視線に気が付いたのか申し訳無さそうに
「私、きのうから眠って無くてね…仕事で」…
『仕事で』を強調したように聞こえた。
ハワードは自分の耳を疑ってみたものの真実は闇の中。
疑われている本人は良い笑顔をうかべているしまつ…
思わずため息が漏れる。
この頑固者は中々、内を見せる気がないらしい…
先の長い戦いになりそうだ。
その事実に満更でもない自分。
…そんな自分にも笑える上、相手の早く帰りたいといったオーラも許せる。
机に置かれた次の仕事と金。
此れが彼の意思だ…
今日の所は彼の不仕付けな意思を汲んで帰してやる事にした。
「----------今日はご苦労さま」
ハワードはゲイリーの肩をポンと叩いてやった。
するとゲイリーはまるで待っていたかのように笑う。
「では、また---------」
と、言い捨て逃げるように部屋を出て行った…
慌てて走る後姿を見つつ、次は何時ごろ会えるのかと
考えを廻らせている間にも…
彼、ゲイリーは器用にも平らな地面に足を取られ
転びそうになりながらも、走り去っていった。
…危なっかしい;;;。
続く。
賭けるものは繰り返しの日常と大切な時間。
仮眠や楽しみの読書を削ってでも欲しい「変動」と「熱」…
ソレをくれる人間をずっと探しているが…
中々見つからないのが現実。
ゲイリー・ビアッジ…
彼で担当者もついに10人目だ…たしか…
今までの担当者ときたら見た目もぱっとしない上に
性格もフツー過ぎていて一緒に居てもつまらなかったわけだ。
どうやら彼、ゲイリー・ビアッジは何かが違うと感じた…
俺の勘は良くあたる。
…根拠はない、けど自身はある。
時間が許す限り彼と居よう、と決めた…勝手に。
ココまで気になるのだから…
何か、何か…見つけられるはず、掴めるはず。
ハワードが自問自答しながら、ぼんやりしているのを眺めるように見ている担当者。
担当者、ゲイリーはハワードが遠い世界へ行ってしまっていると思ったのか…
ハワードの前で手をヒラヒラさせたり
顔を覗き込んだり…と
一応、心配をしている素振をしていたが、小声で「あきた」と…
彼の声で我に戻ったハワードが見たのはゲイリーの大あくびだった…
よりにもよって初めて彼から貰った言葉が
『あきた』とはな------------------------
続く。
「名前?必要ありますか?」
不思議そうに首を傾げている担当者をハワードが眺める。
「そりゃ、必要だ…ビジネス・パートナーだろ?君がこれから僕の担当者なんだし」
「ビジネス・パートナー?」
聞いてない…
そう、担当者の男は笑みを顔に貼り付けてはいるがハワードの話を聞いていない。
それでも、なお…
「名前、は?」
茶色い巻き毛に童顔、それに似合わない大人っぽいスーツの色。
ハワードは元々、担当者についても拘っていた。
over 35 で童顔…
仕事のやる気にかかわると言えば相手側は無理にでも探してくれる。
ハワードはVIP。
プログラミングで彼の上を行く者はいないからだった。
「ゲイリー・ビアッジです。」
ハワードのめげないオーラに負けたのか名乗る担当者。
…ハワードなりの繰り返しに対する賭け。
続く。
「チィ」
舌打ちをしてドカッと地面に座り込む…
呼び鈴をせわしなく鳴らすのは、どうやらハワードの仕事を持ってきた担当者だ。
担当者の男は自分の仕事を済ませるまで帰れない様子だった…
高そうなスーツで地面に座り込むところからも其れが容易に伺えてしまう。
男は時間を潰す為、タバコに火を点け煙を吐き出す。何も考えずに…
いつの間にかタバコの吸殻で小さな山が出来ていて、男は最後の一本に火を点けようとした時…
スッと横から火が出てきた。
「ソレを見れば、俺がバカでも長い時間待たせてしまったのがわかる…どうぞ担当さん」
吸殻の山を指差して笑うと相手を部屋に招きいれる動作でもって行動を促す。
吸殻の山を見られて担当の男はあわてて立ち上がると促されるまま部屋に入った。
第一声はハワードの声。
「済まないな…待ってる間に眠っていた様で-----------えと、名前は?」
続く。